自転車でシューッ

「暖かくなったら自転車でお墓参りに行こうと思ってる。」

叔母は言う。

久しく会っていない母の妹、

最後に電話で話したのはもう2年前。

元気でいるのかどうか、気にはなっていた。

電話番号も覚えてないので、LINEでつながってる従姉妹に聞こうと思っていたが、

固定電話の電話帳機能を開けてみると登録してあった。

叔母は、バツ2で独身の長男との二人暮らし。

LINEの従姉妹の情報によると、仕事に行く長男のためのお弁当作りに精を出し、

「電動自転車をシューッと漕いで買い物にいってるよ〜」

はてさて、どうやろ・・

電話をしてみると、

「もしもし、もしもし」

叔母の声。

「私よ、わ・た・し！」

「もしもし、もしもし」

どうやら耳がずいぶん遠くなっているようだ。

「電話の声も聞き取りにくいので、ついかけそびれてごめんなぁ」と言う。

私の話には曖昧な返事なので、きっと聞こえてないのだろう。

お医者通いと老人会のカラオケの話、

自分の言いたいことだけ喋っていたが、まあ、そこそこ元気そうで安心した。

それでね、

姉である私の母のお墓参りに行きたいと言って、

「暖かくなったら自転車で行こうと思ってる。」

いや、それはあかん！

叔母は独身の頃、うちの工場に働いていて、

自転車で通っていた。

叔母の嫁ぎ先も距離はさほど変わらなくて、若い人でもうちまで2〜30分はかかる。

お墓はうちの近くにある。

結婚してからもよく自転車で遊びに来ていたので、大丈夫だと思っているんやね。

それに今はね、交通量が多くて危ないのよ。

近所のスーパーへ買い物に行くのと全然違うんやで！

弟が迎えにいくからね、

自転車はあかんよ！

あなた、83歳！

叔母の健康確認をしたら、なんだか肩の荷が下りたような気分。

きっと亡くなった母も気がかりだったんやね。

それで私に電話させたのね。